キャリアも家族も。どちらも諦めない選択肢を考える
料理人の世界は、仕込みからランチ、ディナー、後片付け…と勤務時間がどうしても長くなりがちです。妻と子どもを第一に、かつ自分のキャリアを活かして人を喜ばせることができる仕事を――と、今年の4月から「朝食専門の料理人」として働き始めた上野優(うえの・すぐる)さんに話を聞きました。
祖母から受け継いだ、地元の伝統的食文化が原点に
飯山市の戸狩温泉スキー場の程近くにある一棟貸しの宿「The Omoya」が上野さんの仕事場。この宿は飯山にも家を持つイギリス人がオーナーで、海外からの旅行客が多く泊まります。上野さんは市内の富倉地区出身で、The Omoyaには長野市の自宅から通っています。
「夏は緑が生い茂り、秋は田んぼが黄金色になる景色がここから見えます。四季の彩りのある美しい風景を見られて、飯山ってやっぱりいいなと思います」
富倉地区は過疎化が進む山奥の豪雪地帯。子どもの頃から地域のそば店で手伝いをしているうちに接客業に興味を持つようになり、それが料理人を目指すきっかけになりました。祖母は富倉の隣の地区で暮らし、春夏に収穫した野菜を保存食にして冬に食べて生きる昔ながらの生活を送っており、そうした伝統的な食文化も上野さんの原点です。
「朝食で山菜をお出ししたり、パンケーキにふき味噌を合わせたりしています。松本と長野のフレンチレストランで修業してきましたが、飯山の食文化の価値を改めて実感し、勉強し直しているところです」
宿の裏には畑もあり、この畑の管理も上野さんの仕事。野菜は無農薬、有機肥料で育てています。
「自分で育てたものを自分で提供するのが料理人の究極です。やはりその土地の味というものがあり、飯山の野菜はおいしいですし、野菜作りも楽しいです」
近所の農家に教わりながら、多種多様な野菜を栽培しています
家族との時間も持てる「朝食専門の料理人」という働き方
長女は現在1歳8カ月。妻の実家は遠く、子どもが生まれてからは上野さんの母が飯山からサポートに通っていました。しかし、上野さん自身はどうしても帰宅時間が夜遅くなる毎日。子育ての負担が妻に集中する現状をどうにかしなければ――という歯がゆさを感じていました。
そして、もっと家族との時間を持てる働き方を求め、転職活動をスタート。給料の金額や休日の日数を考慮すると飲食業は難しく、全く違う業種への転職も考えたといいます。
「家族のためにという思いでの転職活動でしたが、料理人として10年以上積み上げてきたものを捨ててまでほかの仕事に就くべきなのか、すごく葛藤していました」
そんな時、The Omoyaの管理の仕事をしている地元の旧知の先輩から、「朝食専門の料理人をしてみないか」と誘われたそうです。
「辞めるしかないと思っていた料理人の仕事でしたが、良いタイミングで声を掛けていただきました。The Omoyaでは僕一人で料理を提供するので全てが自分の責任。お客様からの反応も、よりダイレクトにいただいています。自分の力量が試されていると感じます。これまでの店でシェフの下で修業させていただいてきたことを料理にアウトプットし、自分がやりたいことをできているので、疲れを感じないくらい楽しんでいます」
料理の仕込みをする上野さん
朝食専門なので朝は早いですが、12時には仕事が終わります。保育園の迎えに行き、晩御飯を作って子どもを寝かしつけながら一緒に寝られるようになりました。
「すごく健康的な生活リズムになりました。転職前は子どもに会えるのは朝だけで、毎日寝静まった後に帰宅し、夜泣きをした時に真っ暗な中で抱っこするしかできませんでした。今、表情の変化や目まぐるしい成長を感じる日々で、何にも代えがたい時間を過ごしています」
家族との時間を大切にして今の働き方を選んでいる上野さんですが、料理人としての夢も抱いているそうです。
「まだ夢でしかありませんが、いずれは祖母の家を店にできたらいいなと考えています。自分が生まれ育った土地で料理をし、ローカルの文化を活かした料理を提供するレストランをやってみたいですね」













