ライフデザインコラム

地域の人材課題に向き合い、地域の未来をデザインする

横山暁一さん 塩尻市をフィールドに、シビックイノベーション拠点“スナバ”で地域を駆け巡る忙しい毎日を送る

 

横山さんは大学卒業後、名古屋で大手人材会社に就職し、企業の人事や採用の支援をしていました。会社の研修で訪れた鳥取県での出会いと経験が、横山さんの人生の転機に。今では長野県へIターンし、NPO法人を立ち上げ目標に向かって奔走中です。奥様と3人の子どもと暮らす5人家族。

 

自身の“生き方”の方向付けとなった研修

人材会社では、充実した社会人生活を送っていた横山さん。入社4年を過ぎた頃、鳥取県の小さな町に滞在し、地域活性化に関わる研修を受けました。

「地域の人が“家”と“会社”というコミュニティのほかに、“自分たちの町は自分たちで良くする”という主体性をもった“地域”という第3のコミュニティを育てている姿に触れ、とても豊かに感じたのです。自分が住んでいる場所に前向きに関わり、その一員として暮らす生き方をしたい、と思いました」

当時は家と会社の往復。研修後は名古屋でも活動を始めたものの、規模が大きい。どこかの地域で当事者としてその町に関われないか――横山さんの目がローカルに向いた瞬間でした。

 

塩尻市との出会い

そんな折、行政と民間が協働して地域課題に向き合うシビックイノベーション拠点“スナバ”の取り組みに惹かれ、塩尻市の地域おこし協力隊に応募しました。採用が決まったものの、結婚したばかりのタイミング。奥様も仕事をしていること。自身も仕事を辞めるのがいいのか協力隊を諦めた方がいいのか、副業として協力隊を考えればいいのかすぐには結論を出せず、市の協力隊は一旦、断念することに。

「商工会議所で別のポジションを用意してくれましたが1年間悩み、妻とも相談の上、会社に籍を残しつつ塩尻との二拠点活動を決めました。『最終的に会社はあなたを幸せにはしてくれない』。ある方のアドバイスも後押しになりました。2019年のことです」

商工会議所への着任後は、市内の中小企業と都市部の副業人材のマッチングや行政の副業募集など、当時としては先進的な取り組みを次々と実施。100人を超える応募に、地方の副業市場の可能性を感じたと言います。

「本業の会社でも地方の副業サービスを始めることになり、その立ち上げに携わりました。本業での法人支援の経験が地方で活き、会社で新たな事業を立ち上げる経験は後のNPO法人立ち上げに活き、本業と副業の行き来が私のキャリア形成につながりました」

 

地域の人事部“NPO法人MEGURU”の立上げ

率直な意見交換で自分の想いを伝える

協力隊の任期は3年。国の事業も活用していたため、横山さんの活動には期限がありました。“地域の人材課題”を持続可能にするには、それを担う人や組織が必要です。そこで、民間でありながら専門的に向き合うNPO法人MEGURUを協力隊の任期中である2020年に設立。そして2022年、協力隊卒業と同時に名古屋の会社も退職し、本格的に活動を始めました。奥様も「やりたいことを頑張ればいいんじゃない」と応援してくれました。

MEGURUの根幹は、地域の人事部として行政や企業、学校、地域などと連携し、地域に必要な人材事業を枠を超えて共に作っていこうというもの。活動領域は、自分らしく働く人をつくる「個人支援事業」。企業の採用から研修、定着、制度作りなど組織に伴走する「法人支援事業」。そして人と組織に個別ではなく地域全体でサポートする「地域共創事業」の3つ。この活動は“地域の人事部構築モデル事業”として国のモデル事業に採択されて全国からも注目を浴び、今では年間40件ほどの視察や講演依頼があると言います。

「私が二拠点活動を始めて間もなく第一子が誕生しました。妻の里帰り出産を機に塩尻市に拠点を移し、今は6歳を筆頭に3人子どもがいます。週に数回は私がお風呂に入れたり、時には1人で3人みることも。そんな時は電車で出かけたりします。食事は顔の見える地産地消を大切にしていて、時折、私も料理を作っています。また、自己決定ができる人ほど幸福度が高いという研究もあるので、子どもたちには“自分で考え、自分で決める”経験を大切にしています」

 

次の5年に向けて

横山さんの考えに賛同して集まったメンバー。中には移住した人も

設立5年を迎え、MEGURUの取り組みはようやく認知されてきました。しかし、人・組織・地域の持続的成長循環モデルを目指すという大きな構想ゆえ、分かりにくい活動でもあります。自分たちの土台である組織づくりにも力を入れ、理解を深めていく必要もあるとのこと。

「現在フルコミットしているメンバーは5人。業務委託や兼業としてMEGURUに参加している人が15人います。様々な領域でその専門性を発揮してもらっているので、今後は社内の組織づくりに力を入れていく予定です。多様な事情や働き方の制約がある中で、自分たちの能力を発揮できる組織づくりがどうできるか探求していくつもりです。また、これまで以上に各機関が前向きに自走し、塩尻全体での人の循環が生み出せるよう、本当の意味で人の価値を高められるよう取り組んでいきたいと思います」