ライフデザインコラム

豊かな森を100年先の未来の子どもたちに残したい

渡辺美沙樹さん。山や自然の美しさ、自分たちのまちを自分たちで楽しもうとする松本の空気感が好きという

渡辺美沙樹さんは埼玉県出身。社会人経験を経て、自然豊かな場所への移住を決意。SNSでお勧めの移住先を募った際に、友人から松本を勧められ、自然豊かで田舎過ぎず都会過ぎないちょうどいい距離感が気に入り2018年にIターン。学生のころからまちや人づくりに興味があり、松本に移住後は、さまざまな人と関わるようになり、森づくりや森と暮らしについて考えることがとても増えたそう。現在は、森と暮らしに関する市民団体を立ち上げ、ご主人と娘さんの3人で暮らしています。

 

Iターン前に培われた価値観の土台
学生時代、渡辺さんは地域活性化に関わるゼミに所属し、まち歩きや取材経験を通して“地域と人のつながり”に興味を持つようになったと言います。また、自ら考えて行動する大切さも学びました。

「短大卒業後、栃木の林業兼建築会社で働くことになり、たまたま林業の世界に触れました。そこは“木を植え、伐採、加工、家を売る”をトータルで担う会社でした。そこで“地産地消の家づくり”という自然の循環に魅力を感じると同時に、林業の担い手不足や獣害による被害など、森林維持の厳しさを目の当たりにしました。こうした経験から、“森を未来へ残していくにはどうしたらいいのか”という想いが芽生えました。松本に惹かれたのも、山や自然の美しさ、そして自分たちの地域を自分たちでより良くしたいと活動している人たちが多く、その姿に心が動いたからです」

 

“まつもと森林(もり)と暮らしづくり50年プロジェクト(まつフォレ)”立ち上げは松本市四賀地区の松枯れがきっかけ

松本市の公募委員として活動後、有志で“まつもと森林と暮らしづくり50年プロジェクト”を2025年に立ち上げた

Iターン後、渡辺さんは「木が好き。木を未来に残していきたい」と周囲に話していたことで、林業や森林に関わる人たちとのつながりが広がっていきました。その縁で松本市の森林再生検討会議(2020年)のことを教えてもらい、2021年には松本市森林再生実行会議に公募委員として参加し、市民の立場から意見を届ける役割を担います。さらにその翌年、松本市森林再生市民会議運営委員会(2022~2024年)での活動を通して、“松本市森林長期ビジョン”の策定にも関わりました。

「2020年当時、四賀地区は松くい虫による松枯れが大きな問題になっていました。その話を聞いた時、“自分たちの森”を“自分たち”で考えたい━━と思い、松本市森林再生実行会議の公募委員として携わり始めました。そして、その翌年の松本市森林再生市民会議運営委員会にて市民や専門家の方などの意見を踏まえてビジョンを策定しましたが、ビジョンが絵に描いた餅にならないよう森と暮らしをつなぎ、森に関心を持つ人を増やそうと、有志で立ち上げたのが“まつもと森林(もり)と暮らしづくり50年プロジェクト(まつフォレ)”です」

 

まつフォレの活動は始まったばかり

イラストと文字で参加者たちの思考過程を可視化した『グラフィックレコーディング』2025年8月の森林フォーラムにて、これからの森林と暮らしの在り方を共に模索

2025年に立ち上がったまつフォレは、同年8月に松本でキックオフを兼ねた森林フォーラムを開催し、9月末には奈川の森を考えるイベントも実施しました。2026年の1月には森について気軽に話し合える場“森のよろづ・よもやま話の会”という企画も予定していると言います。

「企画は役員で考え、内容に合った人や森林に関わる人に講師を依頼するなどしながら、少しずつ活動を広げています。メンバーは本業の仕事を抱え活動エリアも離れているため、打ち合わせは主にオンライン。仕事終わりの夜の時間帯にZoomで集まり、まつフォレの方向性や今後の取り組みについて話し合っています」

会議には、渡辺さんの2歳の娘さんが画面に登場することも。「一緒でいいよ」と言ってくれるメンバーの優しさに助けられていると言います。「夫は私の活動を応援してくれています。仕事が忙しい中、休みの日には家事をしてくれ、週末は家族の時間を大切に過ごしています。私自身、今は離職中ですが、求職活動をしながらまつフォレの活動や他の公募委員も行っています。ワンオペ育児になりがちでしんどい時は、時々実家に帰省し、家族にサポートしてもらいながら子育てと活動のバランスをとっています」

 

“まつフォレ”がこの先に目指すもの
「まつフォレは、行政と市民のちょうど中間に立つ“ハブ”のような位置づけになれればと思っています。木や森林に関する相談や持ち込み企画など、森林のことなら“まずはまつフォレに聞いてみよう”と思ってもらえる存在になり、市民からの声や要望を行政に届けたり、森林に関心を持ってくれる人を増やせればと思っています。また、大切にしているのは、目先の利益ではなく、100年先の未来の子どもたちに、森林とともに暮らしていける環境を残したいということ。苗木が立派な木に育つまでには50年、100年と長い歳月を要します。森林とは世代を越えて“引き継がれるもの”です。森林は癒しや水、美味しい空気をもたらすだけでなく、私たちの生活、生物多様性、そして心の安定を支える基盤でもあります。《自分たちの(森との)暮らしを、自分たちで考える》。そんな想いを持つ人を増やし、森と共生する自治を作っていきたいです」

渡辺さんは常に「未来に今の森林をどう残すか」「そのために自分が今できることは何か」を自分自身に問い続けています。まつフォレの活動は、その思いを未来につなげていくための“歩み”と言えそうです。