ライフデザインコラム

自治会、PTA、消防団―どうする?地域デビュー

善光寺のお膝元・西之門町の「箱山ふとん店」は、創業115年の布団屋さん。4代目の箱山正一さんは、手づくり市「善光寺びんずる市」の実行委員長、地元の小学校で学校と家庭をつなぐサポーターの会「コミュニティ・スクール」の運営委員長、消防団など、さまざまな活動に携わっています。箱山さんは「やり過ぎだと思います」と笑いつつ、「大変だからこその喜びと楽しみがあります」という、地域活動への思いを話してくれました。

 

「自分だけ良ければ」ではなく、まち全体の未来を考える

箱山さんはちょうど創業100周年の年に父から店を継ぎ、「今あるものを大事にして、綿の布団を再生して打ち直して使っていく、昔ながらの日本のライフスタイルを提案していこう」と考え、職人技でつくる手づくり布団の販売や、布団の打ち直し(リフォーム)や貸布団、丸洗いなどのサービスを提供しています。

「長野を出て大学に行き、就職したのですが、『長野っていい場所だよね』と言われることが多くて、地元の良さに改めて気づかされました。生まれ育った場所に恩返ししたくて、いろいろな活動に携わってきました」

布団屋を継ぐ前は料理人を目指していて、子どもたちが1歳と2歳という、子育て真っ最中の時に埼玉から戻ってきました。小布施町の老舗の栗菓子屋で4年程修行し、社長から「自分の商売だけを磨くのではなく、まち全体をどうしていくかを考えて、まちづくりをすることが、結果的に自分たちの商売が売れていくことにつながる」という考え方を学び、箱山さんの生き方を大きく方向づけました。

布団屋を継いでからは、まずは多くの人に西之門町を知ってもらおうと、2010年から毎月1回、「西の門市」というマーケットを始めました(現在は終了)。それを見ていた善光寺の住職から「善光寺境内で市をやってもらえないか」と声を掛けられ、手づくり品の市「善光寺びんずる市」を2013年に始めました。70店舗でスタートし、現在は200店舗を超えるまでに成長しています。

小学校と善光寺とびんずる市をつなげる活動(箱山さんは一番左)

一方、リノベーションという言葉が一般的になる前から、箱山さんら西之門町青年部と、信州大学工学部の学生が協力して、調査した地域の空き家を紹介して歩く見学ツアーも始めました。すると空き家を借りたいという人たちが現れ、門前界隈に若い人たちが集まり出し、リノベーションして活用される建物は現在120軒ほどに増えました。

「ここに大型ショッピングモールを持ってくることは無理ですが、僕らは『ながの門前モール』を目指せばいいんだと思っています。細い小路を通ったところに、こんなおもしろい店があるよ、と歩いて楽しいまちになり、びんずる市もまちのにぎわいづくりに一役買って、点と点だった我々の活動がだんだんと広がりつつあります」

 

入り口は大変そうかもしれない。でも、やってみたら案外楽しい地域活動

まちづくりに直接関わる活動をしながら、子どもたちが小学校に通うようになるとPTA の役員も引き受けるようになりました。子どもたちが大学生になった現在も、学校と家庭をつなぎ、先生方のためのサポーターの会「コミュニティ・スクール」の運営委員長として、学校に関わり続けています。地域のためにと次々に役目を引き受ける箱山さんを、家族は理解しサポートしているそうです。

「妻は千葉県出身ですが、よく長野に来てくれたなと感謝の気持ちしかありません。僕が携わるいろいろな活動に巻き込まれて大変なはずなのに、本当によく理解してくれています」

5年前には消防団に入り、月1回の会合や、ポンプ操法大会の前には朝4時から練習も行います。

消防団活動をする箱山さん

「僕が小学生の頃、善光寺大本願の敷地で大きな火事があり、消防団の皆さんの活躍ぶりが記憶に残っていて、まちを守る大事な活動だと思って消防団に入りました。PTAも消防団も、入り口は大変そうだなと感じると思うんです。でも参加してみると大変な中におもしろさがあります」

地域で活動するおもしろさ――それは「人と人とのつながりです」と、箱山さんは言い切ります。

「本当にさまざまな人たちとのつながりができます。人との出会いは財産になります。生活の中で困ったことがあった時、この人なら…と思った人に相談しやすくなります。ちょっとの勇気を持って、まずは皆さんにとって身近な地域活動から参加してもらえたらうれしいです」