ライフデザインコラム

ハブとなる居場所を提供し、地域とともに歩む生き方

千村有紀子さん ワクワクやご縁を大切にしながら“やりたい”と感じたことはできるだけ行動するようにしている

 

千村有紀子さんは、ご主人の起業をきっかけに共同経営者となり、生活は一変。“木曽の木”に係わる仕事を軸に、2022年からはギャラリーカフェSOMAの経営も兼務する日々を送っています。ご主人、高校生のお子さん二人の4人暮らし。地元にこだわり、地域活性化への取り組みは過疎問題と相まって注目されています。

 

“木”で栄えたまち―木曽

『木曽路はすべて山の中』――と称される木曽は、まちの大部分を森林が占めています。木曽ヒノキの需要でかつては賑わったこの地も、人口流出に伴い山林には倒木が目立ち、高木となった庭木に手を焼く人が増えていきました。

サラリーマン時代に伐採経験のあったご主人は、山を守り地域の人のニーズに応えようと林業で起業。それまで専業主婦だった千村さんも一転、共同経営者として仕事に携わる中で、ご自身の意識も大きな変化を遂げました。

「主人の仕事を手伝ううちに“木”に興味をもち、林業総合センターで1年間勉強してチェーンソー等の免許を取得しました。木曽の林業課題に少しでも役立てばとさらに勉強を重ねて林業士の資格も取りました。こうした中で地域の様々な課題が見えてきました。商店街は高齢化で空き店舗が増え続けていること。地元の木工作家は県外から材料を仕入れ、販売に苦労していること。山で間伐した木がそのまま放置され、未利用材が数多くあること。こうしたことから薪を始め地元の木の有効利用を考えるようになりました。地元作家の応援ができないか。自然豊かな木曽で木に寄り添い、木の温もりを楽しんでもらえる場の提供ができないか・・・」――そんな夢をご主人と語るようになりました。

 

希望や夢が溢れる空間・ギャラリーカフェSOMAの誕生

最初は9人からスタート。今では20人の作家の作品が並ぶ店内。評判を聞きつけ出品のオファーも多い

 

「あるワークショップで友人の父親が空き店舗を所有していることを知り、翌日には物件を見に行きました。そこで話は一気に進みました。旧中山道沿いで築100年の建物は古民家の風合いを残しつつ、木をふんだんに使った落ち着きのある空間へと生まれ変わりました。当初はギャラリーのみのつもりでしたが、地域の多くの声を取り入れ、今のギャラリーカフェになったのです」

ギャラリーに並ぶ作品は、千村さんが“使ってみたい”と思うものをセレクトしています。カフェの食器やテーブルなどは作家の一品物。風合いや使い勝手が良ければ購入につながるのではと千村さんのアイデアです。パンや洋菓子作りが得意な友人の商品も並び、店内は洒落たアート空間であると同時に、作家にとってはモチベーションアップの場に、お客様にとっては非日常を楽しめる場となりました。

「一部の木工作家には地元の木を提供してそれが作品となり、実際に店内で試用され、購入につながっていく。パンや洋菓子は新たな販路となり、色々な手作り品はお客様の目を楽しませています。スタッフはやりがいを感じて働いてくれ、作家・お客様・運営側の三者がそれぞれメリットを感じられる場になっています。SOMAが地域のハブ的存在となり、そこに集う人達が元気になることで私自身の幸福度もアップしています」

地域の特性を活かし空き店舗の再生にも成功しているため、自治体や観光協会などの視察も多く、地域の期待をひしひしと感じるとのこと。オープン当初は忙しくお子さんは寂しい思いをしたかもしれませんが、営業は16時まで。それ以降は家族の時間にしました。当時お子さんは中学生と高校生。学校行事は時間をやりくりして参加し、「お弁当は作らなくていいよ」「おかずはできあいで大丈夫」と気遣ってくれたものの、手作りにこだわりました。家族の時間を合わせ旅行にも出掛けたそうです。そんな千村さんを「ママ、かっこいい」と最高の誉め言葉でお子さん達も応援しています。

人気のホットサンド。一点物のお皿で供され優雅な気持ちで美味しくいただける

 

振り返れば、誰かの居場所づくりに奔走していた9

地元を愛し、人口の流出に心痛める千村さんですが、振り返ると様々な場面、特に地域の未来を担う子どもの居場所や環境整備にも取り組んできました。「100年近く続いた幼稚園の廃園危機や地元高校の統廃合については、その現状を理解してもらえるような取り組みを、また、“木曽子育てまちづくりの会”を代表して公園の改良・整備など、行政と連携して改善にも努めました。木曽町の新庁舎建築の際は、授乳室やキッズコーナーの設置を、また、交通機関を待つ場所がなく困っている高校生が勉強しながら待てるスペースの開設も提案させて頂きました」

暮らしやすさの追求も、人がそこに留まる大切な要素です。地域を元気にしたいという千村さんの取り組みは、今やライフワークといえそうです。